世界農業遺産
能登の里山里海 能登町
北陸さいはての地、奥能登。半島に包み込まれた内海に位置する能登町。この町を歩いたとき、初めて通る道でさえも記憶のどこかにある風景のような、不思議な感覚に陥るかもしれません。そしてまた、日本中のどこにもまだ知られていない景色が、心の奥底にある記憶の扉を次々と叩いてくるでしょう。まるで、日本人が昔から大切にしてきた感性、自然への美意識を試すかのように…。
豊かな自然と穏やかな海。土地の神に感謝し、祈りを捧げる信仰心。それらを守るべく脈々と受け継がれた伝統文化。この町には、現代人の心から失われた「日本の原風景」が人々の生活に深く息づいています。
能登立国から1300年。農と漁を生業とする先人たちは、戦後の経済成長によって日本人の生活習慣がめまぐるしく変化を遂げる間も、ただゆっくりと、土地や波の声を聞き、語りかけながら、目の前にある自然と共存してきました。そして、能登の伝統と文化を守るだけでなく、日本人の美意識と世界観も伝えるこの暮らしぶりは今、世界農業遺産「能登の里山里海」として、全世界に発信されようとしています。神々と人々が自然を介して共生する、さいはての楽園。能登町には、旅人が探し求めてきた日本のルーツがあります。
能登町には、電車もなければバスやタクシーもそれほど走っていません。場所によっては携帯やWi-Fiの電波がつながらないこともあります。でもそんなときは焦らずに、この土地や自分自身と向き合うチャンスが訪れた思って行動してみてください。たとえば道に迷ったときにこそ「誰も知らない風景」と出会うかもしれません。町の人に話を聞けば、都会の生活では経験することのなかった「人の温かさ」を感じることができるかもしれません。現地の人々との交流によって人生観を深めることも、この町を旅する醍醐味のひとつです。
能登を表現するときに「能登はやさしや土までも」という言葉を使うことがあります。これは、人はもとより土までもやさしいという農の風土を表していると同時に、能登の人は素朴で温かいという意味を表しています。地域の人々や風習と素直に向き合っていれば、だれもが歓迎し、献身的に支えてくれるでしょう。そんな人々との出会いや交流も、きっとあなたの旅をより良いものへと導いてくれるはずです。
世界無形遺産にも登録される農耕儀礼「あえのこと」や、大漁旗を掲げた漁船に榊と御神酒を供えて豊漁と安全を祈願する「起舟」など、農山漁村の文化が息づく能登町には、里山里海の暮らしと深く結びいた祭文化が今もなお息づいています。その中でも代表的なのが、日本遺産として文化庁が認定するキリコ祭です。宇出津地区で開催される奇祭「あばれ祭り」を皮切りに、鵜川の「にわか祭」や「松波人形キリコ祭り」、「柳田大祭」、「小木袖キリコ」など、その土地の特色を表すお祭りが各在所で開催されています。普段は素朴で温厚な能登人が、故郷への思いと祭りへの誇りをもって力強く振る舞うキリコ祭りは、能登の文化風習を語る上で欠かせないものとなっています。
能登町は日本でも有数の定置網漁業が盛んな地域です。定置漁が行われる冬の期間の市場にはブリやアジ、サバなどの新鮮な魚介や、時には鯨が水揚げされます。また、小木港は、全国でも有数のイカの漁獲高を誇り、釣りたてのイカを船の上で急速冷凍した船凍イカが有名です。また、世界農業遺産「能登の里山里海」に育まれたキノコや山菜などの能登の新鮮な野菜も食べることができます。
発酵大国と呼ばれる能登には「なれずし」や「こんかいわし」などの伝統的な発酵食も数多く存在します。その中でも真イカの内臓を使った「いしり」は、料理に旨みをもたらすだけでなく、もったいないの知恵から生まれた伝統調味料として、能登の食文化を映し出しています。
© Nototown Tourist guide