のと里山空港から40分、海辺のいちごパラダイス
能登町の北東部、小さく海にぴょこっと飛び出した岬に位置する赤崎地区。この海に囲まれた土地で育まれたいちごを、その場で摘み取って食べる体験ができるのが「赤崎いちご園」です。
ここまで、のと里山空港から車で40分。つまり東京を飛び立ってから2時間でもういちご摘みできちゃうんです。金沢からも「のと里山海道」を利用して車で2時間の距離です。
赤崎いちご園には数軒のいちご農家さんがありますが、今回訪れたのは進出いちご園さん。赤崎で摘み取り体験ができるいちご園の中で最も海の近くにあります。
いちご摘み取り体験は30分食べ放題。大人(中学生以上)1400円、小学生1000円、幼児500円で、この値段は組合で決めているので赤崎のどのいちご園でも同じです。
支払いをして手を消毒したら、チラシで折った手のひらサイズのかわいい器を受け取ります。これにいちご入れるのかな?尋ねようとしたとき、「こちらへどうぞー」と進出いちご園の息子さんがハウスの方から呼んでくれました。振り返ると、いちご畑はハウスのほかに露地もあるようです。
ハウスは4月中旬、露地はGWすぎからが食べごろ
いちごは、ハウスと露地で食べごろの時期が違うのでしょうか?
「そうですね。例年ハウスの方は4月中旬から、露地はゴールデンウィークすぎてから食べられるようになります。だいたい6月入ったあたりで取り尽くして終わりになるかな。
今年は暖かくて露地のいちごも色づくのが早い感じがします。いつもだと露地はゴールデンウィークに間に合わないんだけど、今年は5日ほど成長が早いように思うのでお客さんに入ってもらえるかもしれないですね。
ゴールデンウィーク時期にハウスだけだといちごが足りなくなっちゃうんですよ。予約以外のお客さんはせっかく来てくれてもお断りしなきゃいけなくて、つらいよね」
確かに!このいちご畑を前に帰らないといけないのはお客さんとしても悲しいですね。
「このコロナのご時世、密を避ける意味でも、ハウスも露地も余裕を持ってお客さんを受け入れられるといいなと思ってます」
一番おいしいいちごを食べるには…
ところで、シーズンの中でもいーっちばんおいしい時期はいつですか?
「シーズンの初めは大きいいちごが多いです。でも大きいいちごって熟すのに時間がかかるので、熟してる途中のを取っちゃうってことがあるかな。シーズン後半になるほど小粒で熟しやすいので、どれ取っても甘いですよ。
俺はシーズンの真ん中らへんがちょうどバランスよくておいしいと思いますね。ハウスなら4月下旬から5月頭ごろ。露地なら5月中旬くらいかな。」
おいしいいちごの見分け方ってあるんですか?
「まず、赤い色が濃いこと。それから形が逆三角形に整ったもの。形が悪くても甘いのは甘いけど、表面に生えてる細かい毛が残ってて口当たりがチクチクすることがあるんですよ。
大きさは味にはあまり関係ないんやけど、お客さんはやっぱり大きいものから取って行かれますね。」
さてもう話よりも食べてみて、と苦笑いして進出さんはわたしたちをハウスに促してくれました。
いざ、いちごパラダイスへ!
このいちご、生まれながらにしてジャムなのか
さっそく濃い赤色で形が逆三角形に整ったいちごを発見。まず一口食べて…
「あまーーー!」
果肉は柔らかくてめちゃくちゃ甘い。そして日の光に照らされているいちごは熱く、まるでできたてのジャムのよう。あんた、生まれながらにしてジャムなのかい?そんないちごある?
でもジャムと違ってみずみずしく、ベタっとした甘さではありません。香りもフレッシュ!
柔らかさや甘さ、香りも、今までわたしが食べてきたいちご、ショートケーキの上に乗ってるあのいちごとは違うフルーツのような気がします。
夢中で次々いちごを食べていると、受付でもらった紙の器の意味がわかりました。
「これ、ヘタ入れだったんだな…」
すでに手元の器には無意識に入れたいちごのヘタがいくつも。
ハウスも露地も、お客さんの足元が汚れないようにとの気遣いで土にはシートがかぶせられています。おかげで歩きやすいので街歩きの靴で来ても大丈夫。子どもたちがはしゃいでもどろんこにならないのはママにも嬉しいですね。
そしてふと気づくと、普段四六時中ママーママーとへばりついている我が子が静か。しゃがみこんで赤いいちごを探すのに熱中しているではありませんか!しかも、目線が低い子どもの方がおいしそうないちごを見つけている!
一人で黙々と宝物を探すようにいちごを手にしては食べている姿に成長を感じずにはいられません。甘えん坊の自立心まで促すとは、赤崎いちご恐るべし。
この土地でしか育めないおいしさの秘密
おなかいっぱいいちごをいただいたあと、どうしてこんなにおいしいのか、進出いちご園のお母さんに聞いてみました。「やっぱり土地…なのかなあ?ここの土と、潮風と。
同じ『宝交早生(ほうこうわせ)』という品種のいちごをよそで植えてもこの甘さにならないっていうのは、よく聞きますね。
うちは代々自分のとこで苗を継いでいて、この苗を分けてくださいって言われることもあるけど、ここじゃない畑に植えてもおいしくならないみたい。不思議やけど。」
露地とハウスで比べると、露地のいちごの方がしっかりした固さがあり、ハウスのいちごの方が柔らかいのだそう。味の違いはないけれど、お母さんはハウスのいちごの方が好みとのこと。
「やーらかい方が好きなんよねえ」お母さんはうふふと笑っていました。
いちごは手間のかかる子ども
いちご狩りシーズンは数週間と短いけれど、いちご農家の仕事は一年中続きます。
いちごは多年草。放っておくと株が増え、だんだん花がたくさんつきすぎて大きな粒が育たなくなってしまうので、間引く作業は重要だそう。
そして雪が積もる冬でも、ハウスのいちごには水やりが欠かせません。
春先は特に忙しく、花の受粉の時期にはハウスにクロマルハナバチという蜂を放します。
(蜂はハウスの資材などを扱う業者さんに注文して買うのだそうです。注文すると蜂が届くなんて…!)
実がつき始めてからは獣との戦いも。電気柵や網をしておいても、すきまを狙ってハクビシンがいちごを食べに来るといいます。
「ここのいちごそろそろ摘んで出荷しよう、と思って次の朝見たらハクビシンの足跡!きれいにヘタだけ取って黒いマルチ(※いちごの根元を覆うシート)にペタッと貼ってあるの!どっかかんか入り込んできて、悲しい~!」とお母さん。
いちご摘み取りシーズンに入ると摘果の日々。早朝のうちに熟れすぎた実を取り、お客さんがその日一番おいしいいちごが摘み取れるようにしてくれています。
「ひっどい(すごい)手間、かかりますよ」
困ったように笑うお母さんは、まるで子どものことを話しているようでした。
赤崎いちごは柔らかくて遠くへ運ぶのが難しいため、摘果されたいちごも地元中心にしか出荷されていません。
能登に来ないと味わえない幻のいちご、なのです。
おみやげ用いちごもボリューム満点
楽しくてずっと進出さん親子と話していたかったけど、最後におみやげ用いちごを買って失礼することにしました。
おみやげ用いちごは1パック800円。自分で摘み取ってパックに入れるか、いちごを選んで包んでもらうこともできます。今回は進出さんにおまかせしたところ…
「…えっと、これはいちごジェンガですか」
「ははは」
「今回だけ特別サービスで盛ってくれたとかではなく?」
「だいたいいつもこれくらいですよ。ラッピングシートと紐がかけられればOKです。スーパーとかに出荷するときは箱を積むので高く詰められないけど、ここでおみやげにするぶんにはその制限がないですからね」
なるほど!800円でこんなに包んでもらえるなんてすごくお得です。
別れ際、お母さんのマスクがいちご柄なことに気が付きました。
「かわいいでしょ。お客さんにもらったんよ」
お母さんは再びうふふと笑ったのでした。
いちごを片手に海を眺めよう
進出いちご園を出て坂を下ると、徒歩1分で目の前に海が広がります。赤崎海岸休憩舎で休みながら、または岩場に下りたり灯台の下で潮風を浴びながら、おみやげのいちごを食べるのもいいかもしれません。
また、いちご園が満員でしばらく待つ必要があるときも、ここで過ごせばあっという間に時間が過ぎていきそうです。岩場に下りるときは安全に注意してくださいね。
赤崎海岸休憩舎から500mほど移動したところには「フィッシングブリッジ赤崎」も。釣り好きの人はもちろん、釣りをしない人でもまっすぐに海に突き出した全長260mの橋を見ると思わず走り出したくなるロケーションです。
また来なきゃなあ。
いちごにも、この海にも、進出さん親子にも、また会いたい。ここに来ないと会えないからまた来たい。
おみやげのぴかぴかのいちごを手に、次はいつかなあと早くも想像せずにはいられない帰り道でした。
記:能丸恵理子